風立チヌ(後編)

そんで、赤女の帰り道ですよ。
ボーズでしょんぼり、しかも夕方には福岡に戻るのでしょんぼり、
そんな僕を見かねたのか、クウルさんが「チヌやってく?」と。やるでしょー。
でもこれが横風きつくてムズカシイ。
2か所目のポイントで、あー俺の夏も終わりかあ・・・って思いながらポッパーを引いてたら、
通りかかりのおっちゃんが話しかけてきた。
道路から釣る場所だから、よく話しかけられるんですよ、そこ。

「なんば釣りよっとね?」
「チヌを」

ここで、いつもなら「チヌ?ルアーで?へえ!」という反応になる。
へえ!の後に隠された言葉は(ルアーでチヌが釣れるんだ)もしくは(チヌなんぞ釣って楽しいのか)だ。
五島では、ルアーをやんない人にとって、チヌは釣りのターゲットではない。
「クソチン」って呼ぶ人がいるくらいだ。ところがこの日話しかけてきたこのおっちゃん。
ヒゲぼうぼう、真黒に日焼けした顔は深いシワ、乗ってる自転車は錆びてくずれそう、
首には古びた真っ赤なタオルを巻いた、この地元のおっちゃんは違った。

「いまサゲ(下げ潮)やけん、
チヌは海底の牡蠣か虫とかば意識しとって、表層は意識しとらんもんね。
アゲ(上げ潮)の効きだす5時からが良かろね」

というのだ。ちょっとちょっと。表層?意識?解説がえらく専門的じゃない?
でもこの時点では、釣りをさえぎられてちょっとメンドクサイと思ってたし
おっちゃんの姿も、どー見てもルアー釣りするような人には見えないので、
あーはいはい、くらいに生返事してたのだが、おっちゃんは気にもとめず
べらべら話しつづける。

「あの岬を超えたとこにある山、見える?あの麓のところがいいポイントなんよー
 小さな集落があって、細い山道抜けていくとさ」

それでも僕は、「またまた知ったようなことをベラベラと。早く行ってくれんかなー。
こっちは釣りに集中したいのに・・・」と思ってた。
で、おっちゃんが立ち去った後です。結局チヌの反応はなく、
クウルさんにおっちゃんとの会話を話すと、

「それさー、めっちゃおもしろいけん、とりあえず、そのポイントに行ってみようや!」

と。言われたとおりの道順をいくと、確かに小さな集落があって、
そこを抜けると、確かに細い道。両脇を草がぼうぼう生い茂る。ここ行けんの?って道。
「千と千尋の世界やん!」と、がぜん盛り上がる。
「これでほんとにチヌがおったら笑うよね・・・」とキャッキャ言いながらクルマを走らせます。
急に道が開けた・・・ら!すっげーいいロケーション!浅瀬が広がる誰もいない海。チヌは・・・・?
おる!おる!

「これで釣れたりしたら笑うよね・・・」ってゲラゲラ笑いながら、
クウルさんがプガチョフを投げると、いいのがついてくるじゃないですか。
チヌから見えないよう、ふたりでしゃがみこむ。その瞬間、バシュッ!って笑。一投。

khulchinu

あの人きっと釣りの神様やったんやろなあ、と。
お盆も終わりやし、ちょっくら下界の見回りしとくかー的な。
だれか会わんやった?8月18日の昼ごろ。

 

風立チヌ(後編)」への2件のフィードバック

  1. いわさき

    えーなあ、こういう解脱したおっちゃんにホント憧れる。
    知恵者よね。
    本物よね。

    返信
    1. たーちん 投稿作成者

      いわさき、ともだちでいてくれてありがとう(笑)

      返信

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