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「虫」
(Tokyo Copywriters Street より)
ストーリー 中村直史   出演 大川泰樹

私が生まれたのはいつのことだったかその記憶はもちろんない。
覚えている最初の記憶は、
雨がふると息苦しくなって地面から顔を出したくなるけれど、
鳥の餌食になるから絶対にダメだと言われたことだ。
それを伝えたのは親だったのか仲間だったのかそういうことは覚えてない。
私たちはほかの私たちに似た生き物のように、
土を口から取り入れ栄養を吸収し大きくなるのではなく、
体全体から塩分を吸収して大きくなるという、変わった成長の仕組みを持っていた。
土の中にいてもはるか遠くに塩の気配を感じることができ、
より塩分の多い場所を求めて地中をさまよった。

多くの仲間は海辺の近くの土の中に住み着くことになった。
海辺の近くは塩分を手に入れやすいが
ひとたび高潮になるとすぐ溺れてしまうリスクの高い場所だった。

私は私の仲間たちよりも体が大きくなった。
私が住みついたのは学校のグラウンドだった。
その場所はとりわけよい環境をしていた。
人間の中でも若い個体はよく体液を出すものだが、
このグラウンドの上で活動をする若い人間たちはとくに多くの体液を分泌した。
ただグラウンドをぐるぐるまわりつづけたり、
小さなボールを追いまわすことでとめどなく汗をながしつづけた。
先生と呼ばれる大人の個体に大きな声で罵倒され涙を流す者もあった。
そのようにしてこぼれ落ちた塩分の多い液体すべてが私の体にしみこみつづけた。

もちろん私の仲間が遠くからこの塩の香りをかぎつけないわけもなく、
つぎつぎと集まってきたが、
すでに私の体はグラウンドの半分を超える大きさになっていたため、
新参者の体に塩分がたどりつくまえに、すべて私の体がすいとってしまった。
しかも巨大化した私の体はどん欲であり、さらなる塩分を求め、
集まった仲間たちの体にたまった塩分を体液とともに吸いつくした。
集まってくる仲間たちは、このグラウンドから逃げ出すすべもなく、
すべてひからびていくのだった。

なにも私の望んだことではなく、巨大化する体も私の意思ではなく、
とはいえ、その状況を変えたいという意思もなかった。
年に1度はそのグラウンドに町中の人間があつまり、
大声をだしあって、走り、綱を引き合ったりした。
このときもまた私の体の巨大化は進んだ。

季節は巡り、私は若い人間からこぼれ落ちる塩分を吸収し続け、
とうとう私の体はグラウンドからその姿をのぞかせることになった。
どんなことがあっても地面から頭を出してはいけない、鳥の餌食になるから、
という言葉が遠い記憶の中から思い起こされたが、
巨大化し、土まみれの私の体をもはや好物の生き物だと気づく鳥はいなかった。
人間たちもグラウンドに小高い山ができているといって、私の上で遊ぶだけだった。

土の中にしみこんだ塩分を取り込むのと違い、
垂れ落ちてくる体液を直接自分自身の体で受け止めるのには、
これまで一度も体験したことのない快感があった。
さらなる快楽を求め、いつしか私の体はグラウンドの表面全体に露出した。
グラウンドに突如増えた奇妙な凹凸に学校関係者たちは首をかしげたが、
それが巨大なひとつの生き物と気づくものはなく、
私は日々ひたすら若い人間の個体からしたたり落ちる塩分の
濃い体液をむさぼり続けた。
人間が何の疑いもなくより多くの体液を流せるよう、
地面に露出した自分の体を真っ平らにすることも、
グラウンドの土と全く同じように見せかけることも、
いつしかできるようになっていた。
初めてこの学校のグラウンドにやってきてからどれほど月日が流れたのか、
気がつけば、私の体はこの広いグラウンドそのものと化していた。

 

 

「バカみたいな想像」
(FM栃木:コピーライターの左ポケットより)

きょうも生きている。バカみたいに生きている。
バカみたいに目を覚まし、バカみたいに歯を磨き、
バカみたいな満員電車にゆられ、バカみたいに売り上げを伸ばす。
バカみたいに議論し、バカみたいにその場をごまかし、
バカみたいに会社とか国とかの悪口をいい、
バカみたいにバカヤローと叫んだりして、バカみたいに酔っ払い、
バカみたいに家路につき、バカみたいにのどが渇いたと、
バカみたいに水をがぶのみする。
バカみたいにおおげさなため息をつき、
バカみたいにくたびれたズボンを脱ぎ、
バカみたいに硬いベッドに、バカみたいに倒れこむ。

テレビのスイッチを入れる。
バカみたいに高性能で、バカみたいに薄型の、
バカみたいに明るいテレビ画面の中で
バカみたいな話を、バカみたいに大声で話す人たちを眺め、笑う。
バカみたいに笑う。エヘヘ。

目を閉じる。
バカみたいな想像をしてみる。
真っ暗闇の中、ぼくは線路の上を歩いている。
バカみたいに長く、バカみたいに冷たくて、
バカみたいにまっすぐ伸びる線路の上を。
そこは真っ暗すぎて、線路がどこまで続いているのか、
どの方向に向かっているのか
なにもわからない。せめて月明かりがあれば、と願うのだけれど、
光はどこにも見えず、物音もなく、
やがて駅にたどりつくのか、
そこに人がいるのか、手がかりは何もない。
歩みを止めてはいけないんだろう、とそれだけはなぜか確信している。
バカみたいに寂しくて、
でもその寂しさに目を向けるとどうにかなってしまいそうで、
ただただ歩くことに集中している。
バカみたいに足を踏み出しつづける。

目を開ける。
きょうも、バカみたいだったぼくは、
どうかあしたこそは、
バカみたいな一日じゃありませんように、
と祈ってみる。
バカみたいに強くこぶしを握り、
バカみたいにろれつのまわらなくなった口で、
バカみたいにつぶやいてみる。

なにかができますように。
なにかをごまかしませんように。
なにかをちゃんと感じられますように。
なにかが上達しますように。
なにか大事なことを忘れませんように。

どうか、どうか。

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妻、ナターシャ
(世界卓球CMアワード2010より)

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通信技術の発達

(世界卓球CMアワード2011より)
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「サイババに祈ってみたその日の夕方」
(Tokyo Copywriters’ Streetより)

「働いているわたしが夕飯の準備までして、
職探しの身のあなたがそんな平気な顔で食べて。
なんか、結婚したころは、こんなんじゃなかったのになあ」
と、妻が言ったとき、
ぼくは、たまたま、サイババのことを考えていた。

インドに住んでいるという、いろんな奇跡を起こすという、
あのサイババのことをだ。

何もない空中をぱっとひとつかみするだけで、
きれいな石がその手のひらからあらわれたり、
医者が見放した難病の人を、突然治してしまったり。
いつかテレビで見た彼は、ほんとにいろんな奇跡を見せていた。

もし彼が「本物」ならば、
ここから遠く離れた国にいるとしても
僕の気持ちをテレパシーみたいなもので受け取って、
何か見せるくらいできるはずだ。

そう勝手に解釈して、
ごはんはしっかり食べつづけながらも、
妻の話も一応ちゃんと聞いているというそぶりも見せながらも、
心の中では、「サイババ、平凡な日々を送るこの平凡なぼくに、
何か奇跡を見せてもらえませんか」と、
なにげに真剣に祈ってみたのだった。

5回くらい繰り返し祈って、何くだらないこと考えてるんだ?
と思い始めたとき、妻が「ねえ、わたしの話聞いてないでしょ」と言った。

たしかにぼくは聞いていなかったのだけれど、
そんなことはどうでもよくて、
妻はそのせりふを言ったあと、ゲップをしたのだった。

それは、とても小さな音で、「きゃふ」と変わった音だったから、
一瞬ゲップだとはわからなかった。
でも、それはゲップだった。
美しいゲップだった。
音程で言うと、たぶん「ファ」と「ラ」の2つの音のつらなりで、
宙に放たれたゲップの上に、スタッカートの記号がついているかのような
快活で、輪郭のはっきりとした響きがあった。

おおげさに聞こえるかも知れないけれど、
生きていてよかったと思えるほどのゲップが、
この世界にはあるのだと教えてくれる、そんなゲップだった。

あっけにとられるぼくに向かって、妻は
「今の、ゲップじゃないから」とちょっと怒ったような顔で
弁明しているのだけれど、
ぼくは、その怒った顔さえもなんだか神々しく見えてきて、
「ああ」とつぶやいた。

ああ、やるなー、サイババ。

うれしくて、ついニヤニヤしながら、
「ごはんおかわりある?」と聞いたら、
妻は落ち着きをとりもどした声で「あるよ」と答えたのだけれど、
ちょっと間をおいてから、
「ほんとにゲップじゃないんだってば」と言ったのだった。

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「北風と太陽と男の中の男」

(Tokyo Copywriters’ Streetより)

強い北風が吹きだしたのは、
あばら屋の横を通りかかった時だった。
屋根の上の風見鶏が、9回回ってぴたりと止まった。
風雲、キューを告げる。

・・・上出来な駄洒落だ。
そう思いながら、ふと空を見上げるとヤツがいた。
意地の悪そうな顔をした北風のやろうだ。
大きな渦を巻き、ほっぺたを膨らませると
俺だけを狙って冷たい風を吹きつけてくる。
コートの裾がバタバタと鳴った。
俺はコートの襟を握りしめ、吹き飛ばされないようにした。
寒いから、ではない。
なぜ北風が俺をつけまわすのかわからなかったが、
負ける訳にはいかなかった。

「男は負けちゃいけない、女房以外には。」
この地方で育った男なら、
腹の中にいるときからふきこまれている言葉だ。

俺は北風に言った。
「歩きづくめで体がほてってたからな、涼しい風をありがとさん。」
すると北風のやろう、悔しそうにどこかへ消えちまった。
・・・ふっ、「風と共に去りぬ」か。

駄洒落のつもりで発した言葉が
ただの映画のタイトルでしかないと気づいた時、
今度は体が温かくなってきた。
見上げると、どっぷり太った太陽が
ニヤニヤしながら暖かい光を浴びせかけてくる。
俺はピンときた。
北風と太陽がばったり出会った。
見るとコートを着たこの俺が、ちょうど真下を歩いている。

「あの男のコートをどっちが脱がせられるか、いっちょやるか?」

事の発端は、おおむねそんなとこだろう。
自然ってやつは、すぐ人間をネタにして賭け事をはじめやがる。

あたりはすっかり暑くなった。
それでもコートは脱がなかった。
太陽は北風との賭けに勝って大金を手に入れ、
さらには「力よりも優しさが大切」なんてウソくさいプロパガンダを
世界に広めるつもりでいる。
そんなヤツに負けるようなら、一生笑い者だ。
俺は太陽を睨みつけると
「お前なんかただの燃える玉だ」と言ってやった。
この一撃は効いた。
赤い顔がさらに真っ赤になったかと思うと、
太陽は、まだ昼過ぎだというのに
いきなり沈んでしまったのだ。

突然訪れた闇の中に、
やっと自分の家が見え一安心した時だった。
行く手に、美しい女が立ちはだかった。
しかも裸だった。

「これこそまさに、立ちハダカったわけだ。」

心に浮かんだ駄洒落の出来がイマイチだ。
こんな時は決まってまずい予感がする。
裸の女は、俺の首に腕を巻きつけると
「ねえコートを脱いで。我慢できないわ。」とささやいた。

何て一日だ。
世界中が俺のコートを脱がしたがる。
俺は途方にくれた。
が、女の言った「我慢できない」の一言は、
俺に、さっきから寒かったり暑かったりで
ずっと小便を我慢していたことを思い出させた。

とろけるような眼差しで言い寄る女に一言
「ノーサンキュー」と言うと
俺は自分の家へとダッシュし
コートを脱ぎすてトイレに駆け込むと、
長い小便をした。(終)

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「隣人を愛そう」
(Tokyo Copywriters’ Street Liveより)
  
隣人を愛そう
ニンジンを愛そう
ニンジャを愛そう
大蛇を愛そう
大ちゃんを愛そう
大ちゃんならああ言いそう
第3者機関ならこう言いそう
第3舞台ならそれやりそう
退散するのは難しそう
解散するのは予算成立後
発散するのは与謝野晶子
ハッサンはアブドルの弟
母さんはアイドルの卵

愛がどこに消えてしまおうと
隣人を愛そう
思いがけない世界のために

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ネイティブアメリカンが信じていること
(Japan FM network)
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にゃあ
(Tokyo Copywriters’ Street Liveより)
http://youtu.be/wKsyRzvkB6Q

中国からの転校生
(Tokyo Copywriters’ Street Liveより)
http://youtu.be/cedKb66FA_0

島崎藤村
(Visionより)
http://youtu.be/kmRh9fC8rKw

星野道夫 旅の始まり
(Visionより)
http://youtu.be/ahnNtk69cxg

ブータン国王
(Visionより)
http://youtu.be/JFxQImpqwEk

前世の妻
(ACC/AdFest)
http://youtu.be/AZMXtH7AyYs

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